読解力

平凡社ライブラリー『肉蒲団』(伏見冲敬訳、2010年、親本は1951年)です。
伝えるところによると、17世紀中国の文学者、李漁、笠翁の著だとか。ストーリーは単純で、女色を極めんとした主人公が、憧れの女性を手に入れたとおもったところ、その女の夫に、自分の妻を寝取られ、さらには娼館に売られ、それと知ったときには妻は自ら死を選び、主人公は仏門に入るという話です。もちろん、そこにいたる色を極める話が中心なのですが、読みながら、馬琴の八犬伝の中には、作者の序文がけっこう入っているのですが、その中で、〈笠翁の勧懲〉ということばがけっこうあったのを思い出したのです。〈勧善懲悪〉をつづめて〈勧懲〉といっているのですが、それはきっとこの作品を念頭においていたのでしょう。それだけ、江戸時代の漢籍が読める人には、このストーリーが知られていたということになるのでしょう。
そういえば、森鴎外の『雁』は、〈明治13年〉(1880年)の大学生の生活を題材にした作品ですが、その中で主人公が〈唐本の金瓶梅〉を古本屋で見かけ、買おうとしたら同じ下宿の学生が値引きを要求したので断ったと主人からいわれ、言い値で買ったという場面があります。〈唐本〉ですから、訓点もついていなかったのでしょうが、そうした本を読みこなしていた(鴎外は特別かもしれませんが)当時の学生の技量を推し量ることもできるでしょう。