確保

新野直吉さんのものを2点。いずれも吉川弘文館からで、『古代東北の兵乱』(1989年)『田村麻呂と阿弖流為』(歴史文化セレクション、2007年、親本は1994年)です。
両者重複するところは多いのですが、律令国家が奥羽地方をどのように自らの領域としていったのかを、史料的な側面から追求します。ですので、タイトルには田村麻呂とか、アテルイとか出てきますが、かれらの事跡は本の中でもそんなに多くはありません。
内海としての日本海を、渤海国と連携して新羅を牽制するという目標のために確保することが、とりあえずの目的で、そのために出羽国は鎮撫につとめ、外洋側の陸奥国はあまり重視しないというのが、一時の政策の流れだったようです。そういう目標設定からみれば、もう少し陸奥側の人びとのことをよく考えれば、兵乱も防げたのではないかと思います。それでも、国家としての機構を備えた日本国に対して、〈蝦夷〉と呼ばれた人びとが対等の国家をつくる時間的ゆとりがあったかはわかりませんが。
それにしても、帰順するつもりで田村麻呂とともに京都にむかったアテルイとモレとが、帰郷もかなわず処刑されるというところに、平安貴族の一面があることは否定できません。女房文学が描くような側面だけではないのです。
いま、田村麻呂が建てた清水寺には、アテルイとモレとを顕彰する碑があります。20世紀末にやっとできたものだそうです。