途中なんだが

『ロスジェネ』4号に浅尾大輔さんの小説「ストラグル」が載っています。とはいっても、最後に「前編終わり」とあるので、未完結の作品ということになるので、本当はいろいろと言ってはいけないのかもしれませんが、注目したほうがいいところをとりあえず、あげておきましょう。『ロスジェネ』自体が終刊ということなので、〈後編〉がいつ発表されるのかわかりませんから。

主人公は、西岡という、労働組合オルグ(未組織の労働者の相談をうけながら、その人たちが労働組合を結成して、不当な扱いに対してたちあがるように一緒になって援助する人)です。ここで、新しいのが、西岡の属する組合の上部団体が、連合を思わせる〈友愛前線連合〉(p6)であり、年越し派遣村のような動きを、根本的には支持していないという設定になっていることです。

ここで、同じ号に載っている、大澤信亮の「君の最後の戦い――浅尾大輔論」のp68で、「全労連」と書いているのは、大澤の読み違えであることは指摘しておきましょう。

西岡は、そうした組合の現状に、満足していないのです。最初のほうの、組合の会議の場面などは、黒井千次の初期作品を思わせるような戯画化した会議が描かれています。その点で、西岡自身が、いわば分裂した状態にいる。それは、この後、彼がどういう動きをみせるのかについて、予断を排するところがあるわけです。これは注意しておくべきことでしょう。

もうひとつ、注意しておくべきことは、この作品では、財務省にテロがかけられることです。しかも、このテロリストたちは、機関銃を撃ちながら建物に突入して、職員を人質にとりながら、自爆していくのです。
浅尾作品には、安易な連帯を拒否する流れがあります。「家畜の朝」では、主人公に医師の診察を受けさせ、彼が病気であることをあきらかにしたおせっかいやきの〈おばさん〉が作品登場時にすでに死んでいて、これ以上の発展をみせないこと、「ブルーシート」では、労働組合は徹底した悪役であったり、新小岩で火炎瓶が投げられたりと、連帯への抵抗が描かれています。しかし、今回、財務省に突入するひとびとは、機関銃を腰だめで撃ちます。機関銃を入手して、それを発砲するためには、そのための目的意識と、入手し練習するだけの財政をともなった組織力が必要です。それは、西岡たちがつくりあげようとする、労働組合的な連帯とは対極にある思想によってつくられる、まったく別の連帯が存在することを示します。作者は、〈拒否〉ではなく、〈敵対〉する存在を小説世界に導入したのです。これを後編で、どう作品として決着をつけるのか、興味深いものがあります。

未完の作品です。このくらいにしましょう。