機会

おうふう、から出た『横光利一 欧州との出会い』(2009年)です。
横光は1936年に渡欧し、ベルリンのオリンピックも観戦して帰国するのですが、そのときのメモが今回発見されたので、それを翻刻して、あとは関係する論考を書き下ろしてもらうという趣向です。帰国後の横光は、「厨房日記」「旅愁」と、ヨーロッパと日本との〈対決〉をテーマにすえた作品を書いていくわけですが、そこにいたる道筋を考えようということでしょう。その点では、貴重な資料にはちがいありません。
旅愁」は1937年4月から新聞連載をはじめたところ、7月に日中戦争が始まって、紙面が戦争報道に割かれる中で連載は中断、その後は雑誌掲載の形で断続的に書きつがれます。それが、日本の戦争への流れと共鳴していったことはいうまでもないことでしょう。野上弥生子が「迷路」を戦争中は書けなかったことと、対照的であることは否定できません。そういう点では、横光が戦時中に「旅愁」を書いていたことそのものの意味も、きちんとおさえなければいけないでしょう。
極端なことをいえば、宮本百合子は1941年から執筆禁止状態にあったわけですから。