つぼみ

これも、没後1周年を記念して出版された、勝山俊介さんの『湖の別れ』(東銀座出版社)です。
表題作は『民主文学』誌上に連載された長編ですが、それと、最晩年の作品「七代目信濃屋喜右衛門」とをあわせて1冊にしたものです。
勝山さんは、西沢舜一の名で評論を多く書かれましたが、小説・戯曲には基本的に勝山の名を使っていました。この「湖の別れ」は、東欧諸国が、スターリニズム体制から離脱した1990年に、主人公が1960年前後に民青同盟から派遣されて、ヨーロッパで国際連帯の活動をしていた時期を回想するという構成になっています。
こういう題材だと聞くと引いてしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、当時の世界の状況と、その中で活動する人びとのすがたが、浮かび上がってきます。

昨日だか、NHK世界遺産の番組で、ハンガリーをとりあげていて、ソビエト追随時代を、否定的一色で描き出そうとしていたようですが、肯定一色でも、否定一色でもない、そうした視点でいることは大切でしょう。「湖の別れ」の中で、ベルリンに壁がつくられたニュースを主人公が休暇をすごしていたときに知らされる、という場面がありましたが、そこに、人びとを分け隔てをする発想を、それ以前のベルリンの鉄道で忘れ物をしたとき(主人公の妻が東ベルリンの駅で電車を降りたとき、電車の中で忘れ物をして、電車は西ベルリンに行ってしまったのですが、無事忘れ物はもどってきたのです)の経験と比較するところなど、当時のゆれる状況を考えさせるものがあります。そのように、つぼみで終わってしまった動きが、きっといろいろとあったことでしょう。