生命感

森蘊(1905−1988)さんの『日本庭園史話』(NHKブックス、1981年)です。奈良時代から江戸期にかけての、日本の庭園をあとづけたもので、実測をしながら庭園の状況を復元してきた著者の研究を、一般向けにまとめたといえます。カラー写真の図版で、平泉の毛越寺や奈良の浄瑠璃寺の庭園なども紹介され、けっこうぜいたくなつくりです。

その中で、平城宮の東院庭園と、左京三条(今は、長屋王の屋敷跡に建っているスーパーマーケットの向かい側にあります)の庭園との、発掘の話があります。この本が出た時期には、まだ復元されているのかどうかわからないのですが、発掘によって、曲水の宴ができる水路があることが判明したというのです。両方とも訪れたときには、たまたま時間帯がわるかったせいもあるのでしょうが、誰も訪れている人はなく、静寂のすがたをさらしていました。発掘復元ということもあって、同じ静寂でも、唐招提寺のどこかのお堂をながめたときとは、空気が違うという感じがしてならなかったのです。庭というものは、やはり人がいてこそのものであって、そこが自然の景観とちがうのだということでしょう。