象徴的

池澤夏樹さんの編集する『世界文学全集』(河出書房新社)から、カフカとヴォルフという、ドイツ語作家の巻です。
このシリーズの中で、ドイツ語作品は意外に少なく、この巻とあとは、『ブリキの太鼓』だけという予定になっています。それだけ、戦後ドイツの文学が、話題になっていないということなのでしょうか。ハインリヒ・ベルの短編とか、アンナ・ゼーガースの作品とか、なくはないのにとも思うのですが。

カフカの「失踪者」は、アメリカにわたった青年が、ひとびとのあいだで翻弄されてゆく話ですし、ヴォルフの「カッサンドラ」は、トロイ戦争を題材にして、目先の利にしがみつく人たちに振り回される主人公が登場します。みずからの立場で選び取ったはずなのに、大きな流れの中では、振り回されるというのも、ドイツのたどったみちと、似た面があるのかもしれません。