今からみれば

レンブルグ『雪どけ』(小笠原豊樹訳、河出世界文学全集、1965年、原作は1955年)です。
タイトルが流行語になってしまったのですが、作品は、ロシアの地方都市を舞台に、工場で起きている新しい動きと、画家がどのような姿勢で創作に向かうのかを、兄妹(兄が画家です)の生活を中心に追った作品です。
この兄は、モスクワで認められたのですが、ベテランの画家にたてついたことで、仕事もなくなり、故郷のまちに帰ってきて、そこで工場長の肖像画を描いたり、「ピオニールの焚火」というタイトルの絵を出したりと、いかにもスターリン時代の、公認の題材をしあげる存在となっています。けれども、彼のなかには、これが絵なのだろうかという気持ちがくすぶっているのです。
そこに、作者の批評をみるのはたやすいと思います。ほかにも、妹とその恋人(工場の技術者です)をとおして、工場の管理についての、上の意向をうかがいながらの工場長の仕事ぶりなど、風刺の意味があるでしょう。
ソビエト時代の作品ですから、なかなか今は見捨てられるのかもしれませんが、ともかくも、70年続いたあの政権下でも、人びとは誠実に生きようとしていたということを、考えさせてくれます。それがああした政治になってしまったのはなぜなのか、そここそ考えなければいけないのでしょう。