傷あと

しんぶん赤旗』に、新船海三郎さんが、終戦をはさんだ時期に書かれた時代小説について書いています。扱われた時代は幕末維新の頃ですが、そこに、当時の状況への批評があるというのです。
考えてみれば、坪内逍遥の「当世書生気質」は、上野の戦争で離散した家族が再会する話ですし、二葉亭四迷の「浮雲」は、リストラされた青年がひきこもる話です。尾崎紅葉の「二人比丘尼色懺悔」も、夫を戦場で失った戦国の世の女性の回想ですし、幸田露伴の「風流仏」も、維新の元勲が離れ離れになった娘を引き取ることが、主人公の奮起をもたらします。日本の近代文学は、権力者の引き起こす政策に翻弄される人びとをえがくところから始まったのだということは、忘れてはいけないのでしょう。鴎外のドイツ三部作にも、そういう要素はあるでしょう。