目の前のこと

中村政則さんの『労働者と農民』(小学館ライブラリー、1998年、親本は1976年)です。
近代日本の資本主義発展の暗部ともいうべき、労働者や農民からの搾取のありようと、それに対するたたかいを、当事者からの聞き取りも交えて、構成したものです。
製糸業や紡績業、石炭産業がいかに労働者を酷使しながら発展していったか、地主−小作の関係がどんなだったか、それに抗してたたかった人たちの姿が描かれます。
ですから、東京での話はほとんどでてきません。鳥取や和歌山の小作争議の話とか、岡谷の製糸業の争議、福岡の麻生系の炭鉱でのたたかい、そうした各地の実例が出てきます。
もちろん、多くのたたかいは敗北を余儀なくされます。けれども、そのたたかいが、たとえば戦後の農地改革をもたらしたのだと、ほこらしげに語る当時の人たちがいるのです。
目先の勝ち負けだけにとらわれるのではなく、そうした長いスケールで、みていかなければいけないのでしょう。
1920年代、小作争議のために集まった村人たちをみて、かつて50年前の徴兵一揆を思い出して感涙にむせんだという故老がいたと、いうエピソードもあります。そうした伝統は、いまもきっと、続いているにちがいないのです。