復刊

毎年恒例の岩波文庫の復刊の季節になりました。
注文促進用のひとくち紹介ののったリーフレットがいつも出ていて、そこには、前回の重版がいつだったかが載っています。
今回の復刊では、いちばん古いのが、1987年以来の重版になるロシアの作家アクサーコフの『家族の記録』で、新しいのは、1997年重版の『新勅撰和歌集』などです。
こうした形で、恒例のように重版するのは、さすが岩波ともいっていいのでしょうが、書目には注文もなくはありません。
「鬼才」と呼ばれた唐の詩人李賀の作品集は、黒川洋一さんの編集で出ているのですが、今回の復刊には、旧版ともいうべき、鈴木虎雄注の『李長吉歌詩集』がはいります。もちろん、それ自体に歴史的価値があるといえばいえるのかもしれませんが、『岩波文庫解説総目録』(2007年)では、旧版扱いで、独立した項目とはなっていないものなのです。
明治大正時代を生きた「文豪」(上州かるたではそう呼ばれています)田山花袋の、『時は過ぎゆく』も、今回の重版リストにあります。それはかまわないのですが、花袋の〈自伝的三部作〉と呼ばれる『生』『妻』『縁』のなかで、以前復刊されたのが、『妻』だけというのは、何かバランスが崩れているようにも思えます。『縁』は文庫になっていないので、しかたがないですが、『生』が復刊されないまま『妻』だけというのも、妙なもので、『生』は中央公論社の「日本の文学」のシリーズのなかで、『妻』は岩波文庫で、『縁』は、筑摩書房の「明治の文学」のシリーズで、と三部作がばらばらな形でしか容易に読めない(臨川書店版の花袋全集はそう簡単には入手できません)のも、何か変だなとも思うのです。
ぜいたくな注文ではありますが。