共通項

吉川幸次郎『杜詩論集』(筑摩叢書、1980年)です。
著者の生前に企画されたのですが、どの文章を収録するかを決めた後、1980年4月に著者が亡くなったので、結果的に遺著となったものです。
杜甫の詩について書かれた文章がいろいろと書かれているのですが、やはり終戦直後のものが生彩を放っています。
杜甫の傑作として、「国破れて山河有り」ではじまる、「春望」という詩が知られていて、漢文の教科書にも多く取り入れられているのですが、この詩が世間に広く受け入れられたには、安史の乱に遭遇した杜甫と、敗戦という事態に直面した戦後間もない時期の日本国民との間に、共感するところがあったように思えます。
吉川さんの文章にも、杜甫の生涯や詩に対して、戦中戦後の状況を重ね合わせたようなものがみられ、1904年生まれの吉川さんと、当時の杜甫とがほぼ同年代にあたることも、杜甫の理解を深めているような感じがします。
そういう「出会い」というものの、タイミングも感じることができます。