短編のたのしみ

『民主文学』1月号は、短編小説の特集です。
昔は、どの文芸誌も、1月号には大家から若手までの多くの作家の、短い作品を並べたものです。中村真一郎さんの〈人間精神の諸領域の探究〉と名づけられた一連の作品など、そうした1月号の短編競作の中で書かれたものが多かったと記憶しています。今は必ずしもそうでもなく、1月号から〈一挙掲載〉的な長いものも載るようになってきたのですが、その点では、『民主文学』は、まだむかしふうのところがあるようです。
親の期待に応えようとしてそれが過度のプレッシャーになって、体が動かなくなる病気にかかる中学生を描いた、能島龍三さんの「オブセッション」がおもしろいです。
野川紀夫さんの「その時のわたし」には、主人公の息子がマンガ家をめざして雑誌の新人賞をとったのだけれど、作品が生み出せずに挫折してしまうというストーリーなのですが、それくらいの描き手なら〈ネーム〉と呼ばれる下書き段階で編集者にみてもらうことができるはずなのに、完成原稿を持ち込んで没にされたように読めるのは、作者が取材不足だったのではないかとも思えてしまいます。
森与志男さんの「いまを生きる」は、「後期高齢者」の年齢に達している主人公の生き方が伝わってきて、思わず襟をただします。
そうした、民主主義文学のいまが、伝わってくる特集になっているように思えます。