空想から空想へ

流行語大賞のトップテンに、「蟹工船」が選ばれて、本屋の店員さんが授賞式に出席したとかいう話です。雨宮・高橋対談の、そうしたこぼれ話的な話題に、きちんと反応したという、店員さんの感覚がすぐれていたのでしょう。

さて、イタロ・カルヴィーノレ・コスミコミケ』(米川良夫訳、ハヤカワepi文庫、2004年、親本は1978年、原著刊行年はとりあえず不明)です。なぞの語り手Qfwfqなる存在が、宇宙の初めにいたり、月と往復したり、恐竜の生き残りだったりと、いろいろな場面にたちあうのです。その点では、荒唐無稽な話ではあるのでしょうが、その中に、恐竜の生き残りの主人公が、新しい生物の村に迷い込みます。そこでは「恐竜」というのが、うわさの存在として思われていたのですが、主人公を見ても、誰もそれがうわさの「恐竜」そのものとは思いません。彼は「怪物」と呼ばれて、その村で暮らしはじめるのです。
そうした仮構の存在を通して、ひょっとすると作者は、存在のあやうさを述べたかったのかもしれません。パルチザンの時代に、「神話的」存在であったパルチザンならば、この「恐竜」と似ている面もあるのかもしれません。そこに作者の屈折をみるのは、ある意味容易すぎておもしろくないのかもしれませんが。