発表舞台

伊藤信吉さんの『逆流の中の歌』(泰流社、1977年)です。
1920年代末、伊藤さんが『学校』という詩誌をつくり、草野心平たちと詩の運動をしていたころの回想記です。当時の流れでは、伊藤さんたちはアナキズムのほうに加わっていて、それがだんだんと転換していくのですが、そのころのさまざまな人たちや動きが紹介されています。
当時は謄写版印刷がこうした詩誌をつくるときによく使われ、場合によっては、個人詩集までも謄写版でつくったというのです。草野心平は鉄筆で字を書くのが上手だったとか。
そういえば、宮沢賢治が草野を中心にした『銅鑼』という雑誌に寄稿していたことは宮沢賢治の全集で承知していましたが、これもどうやら最初は謄写版のようです。
わたしが高校生のころまでは、謄写版は普通に使われていて、蝋引きの原紙に鉄筆で文字を書いていたものでしたが、いつの間にか、コピーだとか、ワープロだのパソコンだのと、印刷の具合も変ってきました。どちらがいいとかいうことではないのですが、それだけに、文字にすることの意味もしっかりととらえなければならないのでしょう。

新日本出版社の『日本プロレタリア文学集』のなかの、「プロレタリア詩集」には、いろいろな作品が載っているのですが、そこに収められたものの解説としても、参考になります。更科源蔵や真壁仁のかかわった詩集、『北緯五十度詩集』についても、伊藤さんは簡にして要を得た解説をしています。