誇り

野川紀夫さんの『時の轍』(2007年、光陽出版社)です。
『民主文学』に連載されていた小説で、1970年代半ば、名古屋のある機械メーカーでおきた、解雇撤回を求めるたたかいを題材にしています。
主人公は、解雇対象にされ、その撤回を求めて、10年余りもたたかいます。
作品の現在は、そのたたかいがおわってさらに10年近くたった、20世紀末なのですが、主人公は印刷所の仕事をしながら、かつて自分を追い出した会社が、再び人員整理を試みるということを知ります。そして、当時ともにたたかった仲間とともに、ふたたび会社へ抗議をするのです。そこから、主人公は、かつての自分のたたかいを回想するという設定なのです。
けれども、過去は決して切り離されたものではありません。現在と過去とは、分かちがたくむすびついているのです。それは今、主人公がしている印刷の仕事ともむすびついています。機械メーカーであろうと、中小企業の印刷所であろうと、人は仕事に誇りを持っているのだという、ある意味では単純な命題ですが、それを主人公は認識していくのです。
1970年代の、人員整理に対抗するたたかいの実態を知るという点でも、けっこう参考になる作品でしょう。