立場

家永三郎さんの、『革命思想の先駆者』(岩波新書、1955年)です。
家永さんといえば、教科書裁判で有名ですが、もともとはこうした日本思想史の研究を主としてやっておられたようで、この本は、植木枝盛の生活と思想を概説的に書いたものです。
植木といえば、自由民権運動のなかで、いろいろな私擬憲法が作られた中でも、けっこう「過激」な内容をもりこんだ案を作ったことで知られています。一方、私生活の面ではけっこう放縦で、遊郭に遊ぶことしきり、ということも知られているでしょう。(病気までかかったそうですから)
意外だったのは、彼が最初の総選挙で当選して、帝国議会の代議士になったとき、国会で吏党と民党とが予算案をめぐって対立したとき、民党のなかで何人か「土佐派」と呼ばれた人たちが態度を変えて、政府側について予算を通したことがあったのですが、そのときに植木は態度を変えた側についたというのです。議会のなかで何かしなければならないときに、ある種の「妥協」は当然ついてまわるのですが、あっさり辞職した中江兆民と、この植木の態度とは、けっこう違いがでているようで、そこにも植木の複雑さはうかがえるのでしょう。