反ユートピアというもの

イリヤ・エレンブルグの『トラストDE』(海苑社)を読みました。名前だけはきいたことがあったのですが、オランダ生まれのある青年が、ヨーロッパを滅亡させる話です。毒ガス爆弾だの、細菌兵器だのと、ぶっそうなものをつかって、いろいろな戦いが起きる。フランスがいわばその中心で、まずドイツを滅ぼしにかかるのです。
もともと、早川書房のSF全集に、カレル・チャペックの『山椒魚戦争』と一緒に収められていたものを独立させたみたいなのですが、『山椒魚戦争』が岩波文庫に収められたのが1978年、こちらは1993年という差は、やはり作者がスターリンの時代を生き延びたことで、ソ連という国の運命とも関連したことでしょう。(河出から出た翻訳をもとにしたとあるので、早川のとはちがうのかもしれません)
第一次世界大戦と、第二次大戦の間のヨーロッパには、そうした「没落」を予感させる作品があるようです。ある意味では、プラトーノフの「土台穴」やザミャーチンの「われら」も、その中にいれられるのかもしれません。ソビエトロシアの現実の展開を知ってしまうと、そうした予感を笑えないのも事実です。
一方では、ショーロホフの「静かなドン」のような、着実なリアリズムもあり、プラトーノフもけっこういい作品を書いているとおもうのですが、それこそ、〈世界革命文学選〉に収められるような作品と、こうした反ユートピア作品とを、きちんと並べて、評価していく必要があるのだと思います。今までは、どちらかに偏っていたように思えるのです。