背筋をのばす

柏朔司さんの、『風花の頃』(光陽出版社)が出ました。柏さんの、仙台での学生生活と、その後の教師生活、政治家としての活動の間のできごとを題材にした作品集です。〈高城〉なり〈榊〉なりと、作品によって主人公の姓は微妙に違いますが、なまえは「たくじ」という発音が共通していることが多いので、ほぼ同一人物としてとらえていいのかもしれません。
この主人公は、大学で教師をめざす勉強をしながら、社会を変革しようとする活動にも参加しています。国政選挙のときには、遊説隊(今で言うハンドマイク宣伝のようなものですね)に加わったりもしました。
彼の学生時代は、ちょうど朝鮮戦争がはじまったころで、日本を占領していたアメリカ軍が、戦争反対を主張する勢力を弾圧しようとしていた時期です。そのためには、反対する人たちに「共産主義者」というレッテルをはることが、当時は役立つことだと考えられていました。(アメリカでもハリウッドの赤狩りなどがその例ですね)仙台でも、大学に「共産主義者」はいらないと主張する、イールズなる人物が占領軍から送り込まれてきます。その講演会を阻止すべく、主人公は行動をするのです。その結果、彼は戒告処分をうけ、それが卒業後の就職のときも、宮城県内に就職がかなわず、隣県の岩手県の、そのまた最北の久慈市にやっとのことで就職口をみつけることとなるのです。
けれども、彼はそうした逆風の中で、科学的社会主義の学習や、教師としての力量をつける勉強に励みます。恋愛とおぼしきものも含めながら、そうした社会進歩のために生きようとする主人公のすがたは、読むものに、生き方についての思索をもたらすものです。
作品集の後半は、その主人公が老境にさしかかるなかでおとずれる、病気との闘いが描かれます。そこにも、筋の通った彼の生き方があるのです。