その地域ならではの

今年の手塚英孝賞を受賞した、猪野睦さんの『埋もれてきた群像』(私家版)を読みました。高知県プロレタリア文学運動の歴史と、そこにかかわった人たちのことを調べたものです。地方紙の連載をまとめたものです。
プロレタリア文学運動は、弾圧を受けたことや、そのあとで戦争の時代があったことで、資料として残っているものは必ずしも多くはありません。東京での活動でも、なくなってしまったものも多いことでしょう。猪野さんは、それを高知の地で探っていったのです。宮本百合子がタイトルにした、1932年の春の文化運動に対する弾圧は有名ですが、高知県でも同じ1932年の4月に弾圧があって、作家同盟の高知支部が壊滅させられたというのです。そうした事実を、猪野さんは丹念に掘り起こしていきます。小説や詩だけでなく、短歌や俳句までも。
全体の流れを追ってから、運動にかかわった個人を追っていきます。作家同盟が解散したり、文学運動が縮小していっても、個人の営みは続きます。兵隊にとられて戦死するもの、〈満洲〉にでかけていって現地作家の作品を翻訳するもの、そうしたひとりひとりの、時代のなかで余儀なくされる生き方が追求されていきます。
こうした、それぞれの地域での運動の歴史をふりかえることで、今まで表面に出てこなかったことがみえてくると思うと、猪野さんの努力に感謝したいと思います。