出版競争

この前、ソルジェニーツィンについて書いたとき、社会主義リアリズムのことについて、簡単にふれた。「社会主義リアリズム」については、『解釈と鑑賞』の宮本百合子特集でも、『道標』をめぐって話題になっている。
今日の話は、そこではなくて、その関係でわかったことを少し。
〈日本の古本屋〉という通販のサイトをよく利用しているのだが、この間のそうした条件があったので、「社会主義リアリズム」について何か参考になればという気持ちで、「外村史郎」で検索をかけてみた。案の定、ナウカ社から出ていた『社会主義的レアリズムの問題』(1936年)という本がみつかった。それと、ソ連の作家大会の報告集とおぼしき、『文学は如何なる道に進むべきか』という本も出てきたので、注文してみた。
それで、届いた本を見ると、『文学は…』のほうは、橘書店という出版社から出ていて、1934年の8月17日から9月1日まで行われたソビエト作家同盟第1回大会の記録だという。それが1冊では収まりきらないので、2冊に分けて刊行する1冊目だというのである。序文自体は無署名であるがたぶん外村のものだろう。日付は1934年10月28日である。奥付には、11月2日印刷、6日発行とある。
実は、それを見て、ナウカから出ていた同じ作家同盟の大会の記録集を持っていたことを思い出して、本棚の奥から取り出してみた。『第一回全ソ作家大会報告』というタイトルである。こちらのはしがきは湯浅芳子の署名がある。日付は1934年11月7日。奥付は、11月10日印刷、14日発行である。外村の本の刊行をみて、あわてて印刷したのだろうか。湯浅は、「文学新聞」などの資料を使って、大会の記録を日誌風にまとめ、それを巻頭においている。翻訳者には湯浅のほかに、山村房次の名も見える。
同じ大会の記録を、二つの出版社から競って出している。それだけ関心も深かったのだろうが、著作権(翻訳権)はどうなっていたのか、今となってはそれも気になる。
内容については、よく読んでから。