「反体制」知識人

ソルジェニーツィンのことです。自伝『仔牛が樫の木に角突いた』(新潮社)を古本屋で入手しました。けっこう分厚い本だったので、読むのに少し時間がかかりましたが、ともかく、彼がもともと科学的社会主義の思想とは縁もゆかりもない人物だということはわかりました。チリのクーデターと、その直後のネルーダの死去にかんしての冷淡な対応は、彼が進歩や革新の思想に敵対する立場であることを示しています。
だから、彼のソビエト体制に対する批判は、ソ連社会主義とは無縁であるという観点ではなかったのです。
そういう点では、自分が信じてもいない思想を信じるふりをして、著作を発表しようとした彼は、そういう点では悲劇の人だったとは言えるのかもしれません。
それにしても、政権獲得後15年あまりで、作家たちをひとまとめにして「社会主義リアリズム」をスローガンにかかげたことの性急さは、今になってみると信じがたいものがあります。そんなに簡単に人間の認識が変わると、当時の人たちは本気で信じていたのでしょうか。たしか中野重治が、民主連合政権の構想を批判して、「選挙で負けたら下野するとは、負けることがあると思っている敗北主義だ」という趣旨のことをいっていたのを読んだ記憶がありますが、ここにも共通する、主観的な楽観主義はどういうものでしょうかね。