今月の裏時評

今月の時評も掲載されたので、そこに書ききれなかったことを。
実は、楽しみにしていたのが筒井康隆著作権侵害問題の経過だったのです。先月号の「巨船ベラス・レトラス」で、作者自身が登場して、北宋社著作権侵害問題について、とうとうと語っていたので、続きがどうなのかとおもっていたら、「最終回」。もしや、書いたことで何か起こったかと最後をみたら、「経過については、本篇単行本化の際、巻末に後記として記載します」とある。なんのことはない、決着はついていないのかということですね。でも、作品自体は問題提起の意味があるので、真正面から時評に書きました。新聞をみてください。
今月は連載・連作が多くて、あまり取り上げるに値するものがなかったというのが正直な印象です。伊井直行の「ヌード・マン・ウォーキング」(『新潮』)も、最後に主人公が樹木になってしまったので、なんだギリシア神話かいな、と拍子抜け。『群像』の前田司郎「恋愛の解体と北区の滅亡」は、だらだらしていてばかばかしい。どうせ宇宙人が東京を侵略して、仲間が北区在住の人間に殺害されたから腹いせに北区にミサイル攻撃をしかけるという設定が何らかの寓意をもっているなら、もっとしまりのきいた書き方をすべきです。
そんなわけで、まずまずだったのが、同じ『群像』の稲葉真弓「小さな湾の青い王」です。語り手の女性の前にあらわれる、耳の悪い女の子を連れたシングルファーザーの石屋さん。彼とその娘の姿が、ほのぼの(語弊があるかな)と描かれていて、すんなり作品世界にはいっていけます。