『東京学生文学』のころ

古本屋で買った、アブデルマレクの本2冊を読みました。原著では1冊のものを、「民族と革命」「社会の弁証法」の2冊にして、1977年に岩波書店から出したものです。
著者はエジプトの人で、パリで主に活躍していたようです。翻訳したのも、熊田亨さんという、フランスのマルクス主義に関する文献などをよく岩波から出していた人です。岩波新書の「五つの共産主義」とか、岩波現代選書の「スターリン時代の東欧」などが、この人の翻訳で出ています。
なんでこんな本を思い出したのかというと、著者の名前をおぼろに覚えていたのです。文学同盟の学生支部での学習会で、グラムシをやったときに、レポーターをした小林さんが、どういう話の流れで持ち出したのかはよく覚えていないのですが、アブデルマレクの名前を出して、いわゆる第三世界の変革と、先進国の「陣地戦」の概念とを比較したような記憶があります。
当時の学生支部は、グラムシだの戸坂潤だのと、文学をそうした哲学的な理論の方面からとらえようとする人が多かったようです。大月書店から獄中ノートの全訳が出る(実際には1巻だけで中絶していますが)とかいうので、当時買いました。今でも持っています。戸坂の全集も、このときではなかったけれど、結局は全巻購入して、いちおうは目を通しましたけれど、空間論などはよくわからないままですね。恥ずかしいけれど。
小林さんは、支部誌の推薦作で一度『民主文学』に掲載されたけれど、そのあとやめて、今は本名で思想・哲学系統の研究者になっているようです。江谷さんも、本名で文学の研究者として、けっこう有名になっているし。
で、今回アブデルマレクの本を初めて通読したのですが、書かれている個々の論点にはいろいろと時代の制約(文化大革命が肯定的に書かれている)はありますし、それを今の日本にあてはめることは当然できないのですが、エジプトのことをヨーロッパで考えるという、著者のスタンスには、よくわかるところがある、という感じです。それがわかったのが、収穫ということでしょうか。