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万葉集の考古学』(森浩一編、筑摩書房1984年)です。
万葉集に登場するいろいろな土地や事物に関して、それぞれの地元の人たちが短文の論考を寄せた、アンソロジー的な性格のものです。万葉集時代の土地の広がりは、古今や新古今のころの歌枕のように実際の体験とは必ずしもいえないものとはちがい、それぞれの土地の実景とふかくかかわっています。実際に国司として地方に赴任した人や、それに随行する人たちの作品を考古学的な面から実証しようというものです。
そう思うと、いまも万葉が人気があるのは、単に「ますらをぶり」をもてはやした時代の記憶ばかりではなく、列島各地の生活につづいた歌が、それぞれの立場にかなう側面があるからでしょう。古典のもつ多面性を、しっかりと見なくてはいけません。