秘匿

司馬遼太郎『歴史と視点』(新潮文庫、1980年、親本は1974年)です。
いわば歴史をめぐる随想ではあるのですが、話のはじまりがグアム島に潜んでいた横井庄一さんが帰還したあたりです。そこから、陸軍戦車兵時代の回想となり、そこにあらわれた日本陸軍の思考へと話題が動きます。
当時の日本の戦車は、空冷式ディーゼルエンジンを使うなど、機械としては優秀な面をもっていても、肝心の砲や防御が、近代戦車戦に堪えられないものだったというのです。にもかかわらず、軍はその存在を機密として、実際には役に立たない戦車をつくっていたとか、試作品だけ見ればすごい性能のものでも、量産が事実上不可能なものを試していたとか、読んでいてなさけなくなるような話が続きます。国が機密にすることなど、このように事実が知られたら困ることなのでしょう。そうした報道がされないから、たくさんの人が亡くなったのです。