ひろいあげる

村上龍さんの『55歳からのハローライフ』(幻冬舎、2012年)です。
中高年をめぐる現実を、さまざまな側面から描いた作品で、熟年離婚やペットロス、早期退職した営業マンの再就職、中学時代の同級生がホームレスになるというような話が、連続してひとつの長編を構成しています。登場人物はまったく共通してはいないのですが、あわせることで、見えてくるものがあります。
この作品、地方紙に連載されたものなので、なかなか評判になりにくいものだったのではないでしょうか。しんぶんで時評をやっていたとき、この作品が連載終了が近いと判断したので、とりあげることにしようと考えました。しんぶんの時評は、約5枚なので、あまりたくさんの作品はとりあげられません。こうした作品を、連載終了直後に取り上げることで、現状がみえるのではないかと思ったのです。しんぶんの読者には、地方紙を読んでいるひとは少ないでしょうから、実際にはどの程度反応があるのかはわからなかったのですが、単行本になってから、しんぶんの読書欄にこの本が登場しましたから、少しは気に留めてくれた人もいたのでしょう。
時評とは、そういうものかもしれません。