身を立てる

星新一『祖父・小金井良精の記』(河出書房新社、1974年)です。
小金井は越後長岡のひとで、日本の解剖学・人類学の基礎を築いたひとです。彼が津和野の人鴎外森林太郎の妹喜美子をめとってもうけた娘が、磐城平の人星一に嫁いで星新一を産んだということになります。事情があって、新一少年は母方の祖父母小金井氏とともに住んでいたので、良精の日記の中にも、新一少年がたびたび出てくるのだそうです。
長岡といえば、維新戦争のときに『賊軍』とされたこともあり、藩閥政府のもとでは出世などかないません。そこで、良精は学問のみちにむかい、ドイツに留学し最先端の学問を学び、帰国してからは東大の人類学教室の後進をそだてていきました。
維新の『敗北者』側に、そうした学問の世界を広げたひとたちが多かったことが、ある意味では近代日本の幅をひろげたといえるのでしょう。その点では、長州が首相をたくさん出したことは、必ずしも名誉とはいえないのではないでしょうか。