方向性

薮内清『中国の科学と日本』(朝日新聞社、1972年)です。
中国や日本の「科学」が、西洋のものとどう違うかについて、エッセイ風にまとめたものです。いろいろな論考だったのでしょうが、著者によると、けっこう書き直したので、論文集ではなく、まとまった一冊として読んでもらいたいようです。
東洋医学のように、経験の蓄積によって有効性が評価できるものはともかく、中国や日本の発想が、西洋科学的な思考をうみださなかったことは事実です。西洋的思考を先に学んだ日本が、それを理由に朝鮮や中国を見下したことも、過去にはあったわけです。(もちろん、脚気問題における鴎外さんのミスのようなこともあったわけですが)逆ゆれをおこすわけにもいきませんから、そうした過去をきちんと知った上で、中国の思考を見なければなりません。

1972年といえば、日中国交回復の年です。この本の出版も、当時の「中国ブーム」をある程度あてこんだものでしょうか。でも、きっかけは何でも、本になることで、後世に残るわけです。薮内さんの本は、岩波新書で何点か出ていましたし、講談社の学術文庫でもたしかあったはずです。そこに加える、読みやすいものですね。