書く人

ジョージ・オーウェル『パリ・ロンドン放浪記』(小野寺健訳、岩波文庫、1989年、原著は1933年)です。
タイトルどおり、作者がパリやロンドンで下層生活をしたときの経験をベースにして記述したものです。パリのホテルやレストランの実態を描き出しています。
こういう生活、実際にやっている人は、もちろん書いているゆとりなどありません。それこそ、誰かが『もぐりこんで』いなくてはならないのです。オーウェルは、そういう意識があったわけではないでしょうし、この本も、告発ではありません。
しかし、ここに描かれる生活は、人間がそれでいいのかという問いかけになっています。そこを、作者自身も、握って放さないところに、読みどころもあるのでしょう。可能性を切らないことが、書く立場の認識でしょう。リアルに現実をみるとき、ついつい、可能性のかけらもないように見える現実に、書く側が負けてしまうこともあり得ます。そこを、問いかけていかなければならないのでしょう。