おおらか

北杜夫さんの『月と10セント』(朝日新聞社、1971年)です。
著者が、1968年と69年にアメリカに行き、NASAに行ったり、アポロ11号の打ち上げの瞬間に立ち会ったりという、稀有な体験を描いたものです。ノンフィクションだそうですので、書かれたことは事実だと考えていいのでしょう。
1960年代のアメリカといえば、ベトナム戦争の泥沼につかっていたり、公民権運動の盛り上がりがあったりという側面と、こうした宇宙開発に力を注いでいた側面とがあるわけですが、北さんは、宇宙へのまなざしに集中して、アメリカを見ています。そこに、独特のおもしろさがうまれているのでしょう。
そんなわけで、言葉づかいも無頓着で、〈パンパン〉のような、今ではとうてい使えないようなことばも頻出していて、これは再刊するのが大変そうだなとも思います。
人が地球の外に出て、月に到着して40年になります。当時も、月に行くカネがあるなら、貧困の克服に使えという議論はあったようですが、人類が、自分の存在を客観視することも大切なわけで、その点で、この40年はジグザグな歩みかもしれません。池内了さんの本などで、地球にやってくるほどの力をもつ宇宙人なら、地球上の争いをみてバカバカしく思っているだろうという意見をみますが、宇宙のスケールと、地上の混乱とを、両方見て解決する方向にむかう力が、人間にはきっとあると思いたいものですね。