人の世界

ジョージ・オーウェル『一九八四年』(高橋和久訳、ハヤカワepi文庫)です。
ご存知の作品でしょうから、細かい話はしませんが、近未来という設定があればこそ、つきつめた世界を創ることが、作者にはできたのでしょう。どうしても、実在の世界をモデルにすると、そこには実際の人間が生きているわけですから、デフォルメにも限度が生まれてきます。ソルジェニーツィンの描くソビエト政権下のロシアも、そこには人間がいるわけですから。
その点で、やはり『動物農場』の世界を、もうひとつ抜け出たといってよいものだと思います。前にも、『動物農場』は、あまりに見え透いていておもしろくないという趣旨のことを書いたと思いますが(真理省で改竄されるかもしれませんね)、この『一九八四年』の重厚さのほうが、すっきりします。
これは私だけの考えかもしれませんが、『動物農場』がおもしろくないのは、動物の擬人化に関して、日本人はイギリス人とちがった捉えかたをしているのではないかとも思うのです。たしか森川嘉一郎さんの『趣都の誕生』(幻冬舎)にあった話ですが、動物を擬人化してキャラクターにするのは、日本独自なのだそうです。〈鳥獣戯画〉でカエルとウサギが直立して相撲をとるという有名な場面があるように、日本人は動物を擬人化して、平然として直立二足歩行をさせます。これは、子ども向けの絵本やアニメの世界でも同じです(しまじろうも二足歩行しています)。そうした映像が頭の中に、自然と生まれると、『動物農場』の世界の、作者の意図した世界とは違うものが現れているのかもしれません。