広がり

田中彰さんの『明治維新の敗者と勝者』(NHKブックス、1980年)です。
NHK出版は、大河ドラマと連動して、けっこう地道な研究者の本を、安価に出すことがあります。北条時宗の時には村井章介さんだったり、義経のときには保立道久さんとかが、NHKブックスで出て、少しびっくりした記憶があります。
この田中さんの本も、『獅子の時代』と連動して出たのでしょうか。内容は、ほとんどが既出の論考をまとめたもので、維新史でなかなか注目されない人にもスポットをあてています。
そのなかで、書き下ろしで収録された論考は、吉田松陰が獄中で交流をもった女性についてのものなのです。
彼女は、武家の娘で、婿養子をとっていたのですが、夫に先立たれてしまったのです。しかしその後、彼女は音楽に興味を持ち始めました。当時の長州では、被差別部落の人たちのなかに、芸能で身を立てている人たちがあらわれていたというのです。彼女は、そうした人たちと仲良くなり、時には家に泊めることもあったといいます。それが、情交をしていると中傷され、詮議された結果、被差別民を差別しなかったという廉で、獄中に囚われていたのだというのです。
そうした人がいて、吉田松陰になにがしかの影響を与えていたというのも、考えるべきことがありそうです。