先に手を出す

岩波現代選書の『南部アフリカ』(1979年、原著は1976年)です。この本は、ポルトガル領だった地域、南アフリカジンバブエのそれぞれについて、その地域の解放運動に長く携わってきた人たちが書いた論文をまとめた本です。原著が出たときには、アンゴラモザンビークが独立したばかりで、南アフリカアパルトヘイトもまだ存在していましたし、ジンバブエは白人政権のもとでローデシアという名前の国であった時代でした。その中で、筆者たちは、それらの国で、解放運動が武力をともなわなければならない必然性を主張します。支配している白人勢力が、多数を占めているアフリカ人たちを、力でもって制圧している以上、アフリカ人たちは武力を使わざるを得ないのだというのです。基本的に、支配している側のほうが先に力を用いて支配を貫徹しようとするときに、対抗勢力は力を用いるのでしょう。支配側の弾圧のありかたが、対抗する側の方法を規定していくということになるのでしょう。
それにしても、30年くらいたった今、ずいぶんと様変わりしているとは思います。モザンビークは混乱が生まれて、日本の自衛隊PKOとして出向いていますし、南アフリカでは、アパルトヘイトが過去のものとなろうとしています。2010年にはサッカーのワールドカップも開催されるというので、1976年には南アフリカ参加をめぐってモントリオールのオリンピックでアフリカ諸国がボイコットしたことを思うと、隔世の感というのはおおげさでしょうか。そうしたことにも、連想がはたらきます。