大局観

長澤和俊さんの『敦煌』(レグルス文庫、1974年、親本は1965年)です。
敦煌莫高窟にあった古文書が、20世紀のはじめにどのようにして発見され、それが中国から流出していったのか、それを通してみえる当時のすがたはどのようなものであったのかを、コンパクトにまとめています。
もともと、多くの文書が残ったのは、西夏の攻撃に対して守るために窟を塗りこめたというのですから、900年ほど世間から隔絶された環境にあったことがさいわいしたというのです。そのくらいの保存に堪える素材であったことも大切なのでしょう。
それよりも、外国への流出を防ごうと、敦煌に国立の研究所がつくられたのが、1944年だというのです。抗日戦争のさなかに、文化財を侵略から守る施策をとるというところに、中国の奥の深さもあるのかもしれません。
目先のことではない、ということでしょうか。