筋をとおして

坂井実三さんの『枇杷の花の咲くころに』(民主文学館)です。
1990年代からの作品をあつめた短編集ですが、長崎を舞台にした少年を主人公にした作品と、企業のなかで良心をつらぬこうとした主人公が老境を迎え、新しい情勢のもとで踏み出そうとする作品とが、おおきな流れになっています。少年時代を描く作品は、貧困のなかに暮らしながらも、世の中に異議申し立てをする父親への複雑な感情を抱く主人公のありようが描かれます。そうした父親の姿は、ある面では家族をかえりみないということにもなるのでしょうか。それでも、老境に近づく主人公は、そのような父親を考えながら、しんぶんの早朝配達を通して、みずからを社会変革の立場におこうかと考えるのです。
そういう形で、筋を通す生き方は受け継がれていくのでしょう。