承認

井伏鱒二太宰治』(筑摩書房、1989年)と、太宰治走れメロス』(新潮文庫、2005年改版)です。
太宰の「富嶽百景」でわかるように、一時期井伏鱒二太宰治のあれこれに面倒をみていました。郷里からの送金も、まず井伏家にきて、そこに太宰がとりに来るという形でおこなわれていたようです。
そうした関係からの文章ですので、やんちゃな弟をハラハラしながら見ているというおもむきが、感ぜられます。
太宰自身も、周囲からどのように見られているかについて、とても敏感であるようにみえます。それが、今の時代に太宰の作品が読まれる一因でもあるのでしょう。『走れメロス』には「富嶽百景」も、「故郷」も収められているので、作者が郷里の人たちからどのように承認を得ていったのかが、見えてきます。前にもどこかで書きましたが、その流れの上に、「走れメロス」も、「十二月八日」も生まれてきたということなのでしょう。彼が、対米英開戦直前に徴用されかかって健康上の理由ではねられたことへの複雑な感情も、その〈承認〉とかかわるといってよいでしょう。