生き延びる

『コレクション戦争と文学』(集英社)の、『戦時下の青春』の巻です。
〈青春〉と名乗っていますが、いわゆる銃後の生活を描いた作品が集められているので、必ずしも青春期の人ばかりが登場するわけではありません。ですから、証券マン(株屋)が旋盤工になる池波正太郎の作品とか、そうした成年男子のありようも活写されます。
それにしても、日本全土が空襲の被害にあったといってもよい状況下では、生き延びることが最大の眼目であったのだし、そうした人たちがいたからこそ、戦後の日本もあったのだと思わずにはいられません。
もちろんそれは、戦時中の体制を肯定してのものではありません。ここに収められた前田純敬の「夏草」という作品は、鹿児島の空襲を記録した稀有な作品ですが、その中にも、奄美や沖縄の人に対する差別意識が鹿児島の人にはあって、奄美出身の青年が主人公からはずれてひとりで島に帰る算段をはじめてしまうのです。そうした意識もきちんと描かれているところに、作品としてのおもしろさもあるのでしょう。