闇のなかから

目取真俊さんの『平和通りと名付けられた街を歩いて』(影書房、2003年)です。作者が、芥川賞を取る前の、いわゆる「初期短篇集」という位置づけで、沖縄で出ている新聞や雑誌に掲載された作品を収録しています。
沖縄戦を生き延びた両親をもち、本土復帰の時期に小学生だった彼は、沖縄の戦後を、体現している世代なのだといってもよいのかもしれません。この作品集の中でも、そうした沖縄の姿が描かれています。
表題作は、沖縄戦のなかで子どもを喪った体験を底にもちながら戦後を生きてきた老女が、半分以上認知症の状態でありながら、「明仁皇太子」の沖縄訪問を機に、体を張った抗議の動きをしていくのです。その方法には賛否はあるでしょうが、そこまで追いつめられた姿は、沖縄が日本の中で受け持たされた「役割」について、考えさせるものをもっています。そこには、本土の人間による「わかったような」対応を許さない厳しさがあります。