知らずにいたけれど

西尾哲夫さんの『アラビアンナイト』(岩波新書)です。
アラビアンナイト」といえば、バートン版とマルドリュス版とがあって、それぞれ日本語訳があり、平凡社東洋文庫から出ているのはアラビア語からの訳であるというレベルのことしか知らなかったのですが、この本ではヨーロッパ社会にこの作品がどのように知られていったのか、それが逆にアラブ社会にもどう影響していったのかについて、いろいろな知見をもたらしてくれています。
昔、岩波文庫の『千一夜物語』を読んで、旧字体の本文になにやら異国情緒を感じていたのですが、フランス語訳をしたマルドリュスという人は、ほぼ幸田露伴と同時期の生没だと知りました。すると、岩波文庫が出始めたころは、まだ在世していたということなのですね。同時代の最新の翻訳を、翻訳の底本として採用したということになります。
中東の地域と日本との関係は、石油がらみで最近イラクのことも含めて、けっこうねじれているような感じもありますが、「アラビアンナイト」の受容も、そうしたねじれと無縁だとは言えないようです。欧米のフィルターを通さない、アラブ世界との関係を考えなければならないのでしょう。