演出

埴谷雄高『姿なき司祭』(河出文藝選書、1976年、親本は1970年)です。
埴谷と辻邦生が、1968年の夏にロシア・ポーランドハンガリーチェコ・東ベルリンと、当時のソビエトの勢力圏にあった地域を旅行したときの記録です。当時のワルシャワ条約機構参加国の官僚主義の実態がありありと描かれていて、そういうものかという認識には事欠きません。
特に、1968年8月上旬という、チェコスロヴァキアへのワルシャワ条約軍の侵攻直前という、とっても微妙な時期であるだけに、プラハの街の姿は、貴重な証言になっています。
ジャズを必死になって演奏しているバンドの様子を見て、「これもノルマだ」と感じてしまう著者の感性がみごとで、当時の「プラハの春」のある種の限界も、ここに見えてくるように思えます。
あと、ワルシャワのゲットーの話は、映画『戦場のピアニスト』を思い出してしまいました。こちらを先に読んでいたら、またちがった感想を映画にもったかもしれません。
著者の作品に関しては、必ずしも共感できるわけではないのですが、こういうのも、たまにはいいでしょう。