日常の延長

今年のセンター試験の小説は、原民喜の「翳」という作品です。戦時中、妻を亡くした主人公が、訃報の通知を旧知の人物に送ったが反応がない。いぶかしんでいると、その人の父親から来信があって、息子はすでに亡くなっていたというのです。そして、主人公はその彼とのかかわりを思い起こすというところです。

その彼は、新潟県から都会に出てきて、魚屋で御用聞きをしている。まだ入営前の青年で、教練に出ては、そのときの様子を楽し気に再現しているような若者だったのですが、兵役につき、除隊後は満洲にいたのですが、病を得て帰郷し、まもなく亡くなったのです。

中等学校に進学すれば、授業の中に教練があって、それが卒業に必要な科目だったわけですが、この青年のように、進学しない人は、居住地で教練をうけていたのですね。当たり前のことでしょうが、こうして書かれていることで、当時のふつうの人たちの生活のありようがみえてきます。徴兵検査は本籍地で受けますから、かれはそのときは新潟に帰ったのでしょう。さりげない描写に、生活の実態はうつるのですね。試験問題とはいえ、いいものを出題者は選んでくれたようです。

ゆとりをもって

大相撲のけが人が多いことがよく指摘されます。力士の大型化は当然原因のひとつでありましょうが、もうひとつの要因として、土俵の狭さがあるのではないかと思われます。

もちろん、1946年のように16尺にしろとはいいませんが、土俵周りの空間の狭さが、転落にまつわるけがを多くしているようにみえます。若元春など、いい例でしょう。高さは、審判がいる位置を考えると現状でいくしかないでしょうから、思いきって、いまのたまり席あたりまで土俵と同じ高さまでかさあげするのです。柔道の試合場をイメージしてくれればいいでしょう。

それだけでも、けがは劇的に減るのではないでしょうか。

柔軟さ

ワールドシリーズが行われていますが、ヒューストンとワシントンの対戦、ヒューストンがアメリカンリーグで、ワシントンがナショナルリーグだと、どうしても逆じゃないかという違和感がぬぐえません。セネタースと名乗れとはいいませんが、もともとヒューストンはナリーグだったのをバランスをとるためにアリーグに移したのですから、こういうことも起こるのなら、ひっくりかえしてもいいのではないかと思ってしまいます。MLBの思考には、そうした転換をするだけのゆとりはあるでしょうから。

惜しかった

安美錦が引退したけれど、実は出場できていれば可能な記録があったのです。それは、琴ノ若との対戦の可能性があり、対戦すれば、安美錦琴ノ若の父親の佐渡ヶ嶽親方とも対戦したことがあるので、親子と対戦したということができたのです。千代の富士貴乃花親子と対戦したことがあったのですが、そういう状況になるところだったのですが。可能性があるのは豊ノ島関です。(白鵬関も可能性がありますが、琴ノ若があがってくるまで現役でいられるでしょうか)

山登り

ごぶさたしていました。

即位にあたって放映された映像のなかに、山に登っていらっしゃるものがありましたが、それを見て、窪田精の作品、「霧の南アルプス」(『民主文学』1988年1月号掲載、のち同題の単行本(新日本出版社、1994年)に収録)を思い出しました。作者と同年の主人公が、20歳で入営直前に北岳で亡くなった同級生の慰霊碑をたずねて登山する途中に、当時まだ昭和天皇在位時で、皇太子にもなる以前の現天皇の一行に出くわすというストーリーです。現天皇が20代後半のころですね。主人公は1921年生まれで、徴兵検査で合格して現役兵として入営するのは1941年の年末から1942年にかけてのことです。その同級生はそのときに山で遭難したわけです。

やっているなら

今尾文昭さんの『天皇陵古墳を歩く』(朝日選書、2018年)です。

最近、宮内庁が管理する〈陵墓〉への学術的な立ち入りが、少しずつ許可されているのですが、著者は、そこに参加して、いろいろな古墳の実態をみてきました。その経験から、古墳の状況と現状を記したものだということです。

実際には、管理の都合上、宮内庁もときどき学術調査をしているようで、発掘はともかく、管理(お濠に水が張ってあれば、当然浸食も起きるので、護岸工事が必要になる場合もあるとのことです)をしているために、わかっていることもあるようです。

そうした結果を、積極的に公表していくことが必要かと思います。いつまでも太田茶臼山古墳を「継体天皇陵」といいはるのも無理があるのではないでしょうか。

橋のたもとで

今年のセンター試験の小説問題は、上林暁の「花の精」という作品からです。主人公が庭の月見草を除去されてしまったので、友人と今の西武多摩川線に乗って、多摩川べりまで月見草を採りにいくという場面です。川べりにあるサナトリウムをみては療養中の妻を思い、それと月見草とがリンクしていくという作品です。

ものの本によると、是政橋が完成したのが1941年と、この作品の発表(1940年)で、設定もそのとき(ドイツ軍がパリに迫っているという新聞記事が出てきます)なので、橋は仮橋で、橋番がいて管理しているという状態が描かれています。そうした、貴重な時期を切り取った作品でもあるのでしょう。川の向こう側を走る南武線が2両編成だというのも、時代を感じさせます。

 

鉄道がらみで別件。「テツぼん」で〈新宿〉をからめた謎解き話がはじまりましたが、ちょっと単純すぎるかと。すぐ○○区だとわかってしまいます。