一辺倒ではなく

『現代ドイツ短編集』(三修社、1980年)です。
DDRの作家たちのアンソロジーという、今となっては珍しいものです。もちろん、アンナ・ゼーガースやクリスタ・ヴォルフのような、よく知られたひともはいっているのですが、それ以外の人の作品にも、なかなかおもしろいものがあります。政権に対しての暴動が起きたときに、引っ張りだされた元NSDAPの女性が、みんなの前で演説をぶち、つかの間の高揚感にひたる作品(「女司令官」)など、人間の意識のある意味での強固さを描いていて、ことは単純ではないのだと、考えさせられます。
この前の『民主文学』での谷本さんの論考にも教えられることは多いのですが、〈東側〉と呼ばれた世界で生み出された作品も、もっとよく読みこんで考えていかねばならないのでしょう。