亡命

佐藤静夫『トーマス・マン』(新日本新書、1991年)と、長橋芙美子『アルノルト・ツヴァイク』(近代文芸社、1995年)です。
ここで取り上げられた二人の作家は、いずれもドイツから亡命した人たちです。片方はアメリカに、もう一人はイギリス委任統治領のパレスチナへと、方向はちがいますが、NSDAPのドイツから逃れたという面では似たような軌跡をたどります。
亡命しながらも作品が書けるというのは、欧米の作家たちが、それぞれの言語での作品を享受できる環境があって、ある程度は作家の生活を保障できる流れができていたからなのでしょう。かれらの作品の登場人物は、ヨーロッパをまたにかけて動いています。
そういう点では、アジアの場合は難しいところがあったでしょう。逃げられる中立国がないのですから。
でも、ツヴァイクが亡命したパレスチナでは、ヘブライ語を使って表現活動をしないと批判されるという、偏狭な世界だったようで、それが現在まで続いているというのも、困ったものだとは思いますけれど。