終わりははじまり

風見梢太郎さんの『再びの朝』(新日本出版社)です。
主人公はある通信会社の研究所に勤め、定年を迎えて再雇用ではたらいています。彼は京都の学生時代に日本共産党に入党し、職場のなかでも思想を理由にした差別待遇を受け続けてきました。けれども、かれは思想を捨てずにがんばりとおし、そして、職場の若い世代の研究者たちとつながりをもとうとしています。その中で、彼のたたかいを引き継ごうとする人もあらわれます。
そこには、大地震原発事故以来の、状況もあるのでしょう。主人公は線量計を持ち、いろいろな場所の放射線量を測定します。そのなかで生まれた出会いも、職場のつながりに生きてきます。主人公と学生時代、運動をともにした仲間のうちには、運動からは離れても、電力会社のなかで放射能に関する知見をもち、主人公に伝える人物もいます。
ある意味では、風見さんの作品の集大成的なところもあり、今までの作品に描かれたエピソードを再構成しているところも見受けられます。そのなかに流れているのは、絶望的に見える状況のなかでも、人は未来を信じることができるというものでしょうか。定年は終わりではありません。次につなぐためのはじまりなのでしょう。