隠しても

岩本千綱(1858‐1920)『三国探検実記』(中公文庫、1989年、親本は1897年)です。
ここでいう三国とは、タイ・ラオスベトナムのことで、著者は僧に身をやつして、バンコクからビエンチャンをへてハノイまで、基本的に歩いて現地を観察したのです。同行者もいたのですが、その人はハノイで病を得て、客死してしまったそうな。
日清戦争に勝って、台湾という新領土を手にした日本は、帝国主義列強に加わって領土分割にかかわろうとします。その中で、タイ王国との関係ももつわけで、そうした事態が、著者の探索行にも影響しているのでしょう。実際、著者たちは、場合によっては自らの正体を明かして、移動に際しての保護を得ようともします。すべてを身をやつして移動するには、現地は過酷な地だったのでしょう。
こうした努力の成果を、どの程度日本国は支配の際に生かそうとしたのか、それはもう少し知らなければならないことでしょうね。