新たな視点

佐多稲子に『重き流れに』(講談社、1970年)という作品があります。その後講談社文庫(全2冊、1976年)に収められました。
満洲ハルビンに赴任したある日本人家族をモデルにして、植民地時代の日本が何をしたのかということと、夫婦の関係とは何かを問いかけた作品です。
そのモデルになった日本人家族が、実は戦後、マンガ家として活躍した上田とし子の一家だと、今回初めて知ったのです。上田の「フイチンさん」という作品が、戦後マンガ史のなかで、植民地経験ということも含めて重要な意味をもつことは、以前から大塚英志さんの文章などで知っていたのですが、こういうつながりがあったとは実は知らなかったのです。
村上もとかさんが、どこかの雑誌に、上田とし子を主人公にしたマンガを連載していて、村上さんの傾向から、どういう方向にいくのかと考えながらみていたのですが、この一家が佐多作品のモデルだとわかったら、発見があるかもしれません。村上さんは娘の立場から描くのですから。