歳月

山口勇子『海はるか』(新日本出版社、1988年)です。
表題作は、1984年に1年間『女性のひろば』誌に連載された長編で、それといくつかの短編があわさって1冊の本になっています。
表題作は、当時の東京で、いろいろな社会活動にたずさわっている主人公が知り合った女性が、かつて第五福竜丸の被曝者のかたに手紙を書いて、その返事が当時の乗組員から返ってきたところから、ストーリーが展開します。
その被曝した人は、今は宮城の塩釜で暮らしていて、土地の平和運動にもかかわって、これからの自分の生き方を考えようとします。一方手紙を当時送った女性は、当時住んでいた瀬戸内海の島で、水爆実験の危険水域にいた船とかかわりがあったために、第五福竜丸が自分と無関係とは感じられないために、手紙を書いたのだということが、作品の展開のなかでわかるようになるのです。
当時でも、第五福竜丸の被曝から30年経っていたわけで、今はさらにそこから30年経過しています。ですから、小説の登場人物たちも、作品に登場してから30年の月日を経たことでしょう。
その人たちの『今』をどう考えるか、そこに、小説家の課題もあるのかもしれません。そのためにも、再刊を期待したいものです。