自負心

出処進退についていろいろと考えていたのですが、ふと、中野重治の「むらぎも」に連想がはしりました。
中野の描く主人公は、何かしらの「我」をもっています。「佐野の無礼は許せても……」だとか、「甲乙丙丁」における田村や津田のこだわりにしても。
「むらぎも」で、印象に残るのが、芥川をモデルにしたとおぼしき人物が、中野とおぼしき人物に、〈『驢馬』の同人の中で、ちゃんとやっていけるのは中野と堀辰雄だけではないか、窪川鶴次郎もどうだか〉、という読み取りができる話をしたという個所です。そう考えると、「むらぎも」という作品は、中野が自分と堀との関係を再確認した作品だという側面から読み解けるのではないでしょうか。実際、作品が書かれたのは1953年の末から54年にかけてですから、1953年に亡くなった堀をしのぶ意味合いも、中野にはあったのではないかと思うのです。