縛り

杉浦明平『戦国乱世の文学』(岩波新書、1965年)です。
いわゆる中世から近世初期の作品をとりあげ、古い価値観や美意識に支配されている作品だと論証することが主になっています。
もちろん、当時の文学作品が平安時代の価値観を是とする意識に貫かれていることは著者の言うとおりではあるでしょうが、それで当時を塗りつぶすような物言いには、少し言い過ぎではないかとも思います。当時の漢文学を「じぶんたちの文学とは信じられない」と言い切ったりするのは、1960年代という時代の制約かもしれませんが、どうかなと思ってしまいます。
ただ、王朝美学にとらわれた作品として、当時のものを斬るのはいいとは思いますが、それだけの深い桎梏を現代の日本文学も背負っているのだということは、忘れたくはありません。
そこから出発しなければならない文学伝統の重みは、無視できないと思うのです。

著者と花田清輝とは、終生の盟友だったようですが、この本でも、『室町小説集』や『日本のルネッサンス人』と似たような呼吸を感じました。その点では、似たものどうしだっとのでしょう。